XOXO♥ドッペルゲンガー - 2/2

「上がったよー」
『じゃあ……よろしくお願いしますね、パパ』
「は?」

 戸を開いて部屋の中へ一歩踏み出した途端、自分とよく似た、けれど絶対に自分が出す筈のない甘い声が聞こえてきた。

「遅いぞ白野。そら、早く我の元へ来い。愉快なものを見つけたぞ」

 猛烈に嫌な予感に苛まれながらも、ここで石像のように固まっているわけにもいかない。彼がワインを飲みながら寝転がっているベッドへと迅速に向かうと、彼の視線の先にあるテレビには――衝撃的な映像が映し出されていた。

『ありがとう、パパ。すっごく嬉しいです』

 私がいるヽヽヽヽ
 ……いや違う。私と見紛う程にそっくりな少女がテレビに映っている。

 私の持っているそれと似ているようで違うセーラー服を身にまとった彼女は、誰かの腕を取って自分の胸の谷間に押しつけている。……訂正。私とそっくりなのは顔だけで、胸は私と似ても似つかない程にご立派だ。顔も似てはいるけれど、よく見ていると何だか全然違うようにも見えてくる。だって、私はこんな蕩けた、恋をしている乙女のような表情なんてしない。他者から見た時実際にどうなっているかはわからないが、とにかくしていないと自認している。……何これ、何これ、何これ!? あわあわと震えていると、横でギルガメッシュがはははははと高笑いを始めた。

「何、たまにはテレビで暇を潰すのも良いかと番組を眺めていた時に見つけたのよ。この星は我らと同じく人型の生命体が主流であろう? 斯様な偶然も有り得よう」
「あ……あの、もしかしてこれはそういう……」
「ふん、答えるまでもなかろう。地球風に言えばアダルトビデオという奴だ」

 彼の返答を聞いて思わずベッドに頭から倒れ込む。……わかってたけど。わかってたけどそうじゃないことを期待していた私が馬鹿だった!

「いや……だからって何で見てるの!」
「たわけ、見ない選択肢があるか。ちなみにビデオのタイトルは『女子校生種付けプレスシリーズVol.404 何でも許してくれる巨乳セーラー服美少女に密着種付け性交♥3時間』だ。えー、女優の名は敷波しらの。ははは、名まで似ておるぞ貴様」
「笑い事じゃないから!」

 ギルガメッシュの明朗な声でAVのセンセーショナルなタイトルが読み上げられていることに対する違和感は強烈である。そんなことに突っ込んでいる間もなく、テレビの画面はいつの間にか濡れ場へと切り替わっていた。

『エッチは初めて?』
『はい……だからすごく緊張してて……優しくしてくれますか……?』

「おわー! 待って待って待って!」

 慌ててリモコンを取ろうとするも、ギルガメッシュがそれを見逃す筈もない。リモコンは当然のように彼の手に収まり、私は逃げ場をなくす。もうだめだ、と目を瞑り耳を塞ごうとすると、「何をしている」とすぐさま彼に抱きすくめられ両手の自由を奪われた。目は瞑ったままだが、だからこそテレビの音声に気を取られてしまう。

『おっぱい大きいよね。何カップ?』
『F……です』

「ははは、似ているのはやはり顔だけか」
「うるっさいな黙っててください」
「ん? 何だ、やはり興奮していたのか」
「ちっがう!」
『……んっ……♡』

 私が断固否定しても、画面の向こうの彼女――しらのは男優のいやらしい手つきに反応している。……いつの間にか、ギルガメッシュも私のなけなしの胸をまさぐっていた。諦めて目を開けると、しらのは脱ぎかけのセーラー服の下からまろび出た豊満な乳を男優に後ろから揉まれていた。ブラジャーは未だつけたままだ。私も同じく、パジャマのTシャツをたくし上げられてギルガメッシュにブラジャーの上から揉みしだかれている。

「久々に興が乗ったぞ」
「……まさかとは思いますが、王様」
「そのまさかだ」

 画面の動きに合わせて私としらののブラジャーが外される。どっしりと質量のあるお椀型の乳房、ピンク色の乳輪、果実のような乳首にごくりと咽喉が鳴る。対して私の円錐型の乳房はかなり小ぶりだ。ぴんと立った乳首も小粒で、何だかみすぼらしく見える。

『しらのちゃん、乳首敏感だねえ』
『そ、そうなんです……っ♡』

「であろう? 白野」
「であろう? じゃない! ……っ」

 乳首をくにくにと転がされて引っ張られると、じわりと広がる性感に俯いてしまう。……嫌だ、嫌だ嫌だ。何でこんな一方的な羞恥プレイを強いられているんだ私は。彼女と同じような反応なんてしたくないのに、どうしようもないくらいに興奮している自分がいる。私の体はギルガメッシュに開発されたものだ。どう足掻いても、私の好きな触り方、好きな場所を熟知した彼に触れられている状態で反抗するのは至難の業である。

「彼奴と比べれば随分と貧相だが、そう気を落とすな。演技しているしらのとやらと比べて貴様のそれは素だ。貴様の大根芝居は常であればいざ知らず、閨の中では興醒めにも程があろう」
「あ、ぅ……知らない、……っ」

 知らない、うるさい、知らない。その程度の語彙しか出てこない。というか、ここで演技だと言っても言わなくてもギルガメッシュの思うつぼなのが悔しい。彼の意地悪な遊びに自ら付き合っていると思われるのも癪だ。かといっていつも通りただただ感じていることを気取られても、いつも通りただただ面白がられるだけだ。彼から持ちかけられた時点でゲームは詰んでいる。

『ん、ふ、ぅ……♡』

 しらのはいつの間にか男優とキスをしながら服を脱がせ合っている。ギルガメッシュもまた私の体の向きを変え、噛みつくように口づけた。口内に浸食してくる彼の舌を受け入れながら、私は抗議の視線を送る。けれど彼のルビーの瞳に圧倒されて、結局それ以上のことは何もできない。できないまま、折角着たパジャマをぽんぽんと脱がされていく。

「貴様も脱がせよ」

 ほれほれと言わんばかりに腕を広げるギルガメッシュを睨めつけた後、ええいままよと言わんばかりの勢いで彼のバスローブの紐を解き前を広げる。彼の半勃ちの陰茎からは視線を逸らすと、「今更生娘の顔をするな」とギルガメッシュは笑う。……するなとは言っているけれど、実際されると嬉しい奴でしょこれ。

『パパのおちんぽ……すっごくおっきいですね♡』
「ギルのはそんなにおっきくないね」
「処すぞ」
「今はまだって付け忘れました」

 一応反撃してみたが、やっぱりベッドの上で彼に優位を取るには4000年早いらしい。渋々しらのと同様に彼の陰茎に手を添え、少しだけ力を入れながら扱き始める。

『そう……そのまま胸で挟んで』
『こう……ですか……?』

「ふはははこれは流石に再現できぬなあ」
「……………………」

 全くもって遺憾の意な発言が聞こえた気がしたが、反応しても正論パンチを食らうだけなので何も言わない。言わないまま、彼の陰茎に食らいつく。勿論歯を立てるわけではない。立てたら冗談抜きで首を刎ねられそうだ。とにかく、彼に覚え込まされたテクニックを最大限活用する。唾液を口いっぱいに溜めて垂らし、すり込みながら舐める。特に亀頭の部分を舌で優しく吸いながら根元を擦ると、半勃ちだった彼の陰茎がどんどん太く大きく成長していくのがわかった。……正直、フェラチオはこの過程が一番面白い。彼の陰茎を口に含んでいる間は、彼の興奮の度合いをより間近に感じ取れる。私の刺激によって陰茎が固くなる度に、余裕綽々の彼が私の口内で射精しないよう踏ん張っているかも知れないと想像するのはやっぱり楽しい。

「ではもっと面白くしてやろう」
「んっ……!?」

 心中を読んだかのようなことを言って、ギルガメッシュは私の頭を掴む。彼の陰茎が咽喉の入口を圧迫して思わずえずきそうになるが、それすら許さないと言わんばかりに彼が腰を振り始める。

「んっ! ん、ぅ、うう……!」
『ぐうっ……う゛、ん、……♡』
「そら見ろ、彼奴も貴様と同様咽喉を突かれているぞ」

 正直彼のピストンの合間に息を継ぐ動作で手一杯だったが、言われるがままに視線をずらしてテレビを見遣ると、しらのもまた腰を振っている男優の陰茎をその口の中に受け入れていた。ギルガメッシュと違ってだらしのない男優の尻が揺れる度に彼女の乳房もまた振動し、呻いているかのような喘ぎ声が漏れる。私と違って彼女の視線は――当然だが――交わらない。自分に欲情している男の顔を見上げたまま従順に、ただの性欲処理の為の人形のように振る舞っている。

 ……では、今の私もまたただの人形なのだろうか? ギルガメッシュの性欲を満たす為だけに存在している器。それが今の私、なのだろうか?

「ん、う゛……!」

 ……違う。それは違う。私は彼の人形なんかじゃない。咽喉を圧迫する彼の陰茎を逆に吸い込みながら、私はギルガメッシュを睨むように見上げる。

「……ふん」

 口を塞がれて何も言えないままではあったものの、ギルガメッシュは私の視線から何かを感じ取ったのか、満足げに私から陰茎を抜く。すぐにぜえぜえと肩で息をしながら流れっぱなしだった唾液を拭うと、間髪入れずに彼に押し倒された。

「つ、疲れた……」
「何を言う。これからが本命であろうが」
「そうだけどさ……イラマチオは私が大変なんだってば」
「では、貴様はただ寝そべっているだけでよい。我自ら先の奉仕に対する報償を与えよう」

 ……何かそう言われても嫌な予感しかしないのですが。半目になりながら「じゃあ、どうぞ」と身を委ねると、ギルガメッシュはにやりと笑って私の太ももを掴み、股ぐらへと顔を寄せた。そのまま彼の唇が、舌が、私の陰部を舐め上げる。

「ん、あっ、ああっ、う……っ」

 クリトリスを強く吸われると、気持ちよすぎて思わず呻いてしまう。ただ指でまさぐられるのとは違う、強いけれど痛くない、ただただ気持ちがいいだけの刺激。気が触れそうになる快感に背中を逸らせていると、視界の端に再びテレビが映る。しらのの陰部には既に男優の陰茎が挿入されていた。バックで突かれながら高い声で喘ぐ彼女をぼんやりと見つめながら、私はギルガメッシュに声をかける。

「……ねえ」
「何だ」
「私も欲しい」

 陰部への刺激を止めて唇を拭うと、ギルガメッシュはにやりと笑って膝を立てた。

「彼奴のようになりたいか」
「ううん、違う」

 彼の意地悪な問いに首を振る。私は誰かの欲望を受け止める人形じゃない。人形として振る舞うしらのを否定するわけではないけれど――彼女にはなれないし、なりたいとも思わない。

「私は……ギルと一緒に、気持ちよくなりたいだけ」

 自分の気持ちを素直に表現すると、ギルガメッシュはため息をついてふと笑った。

「貴様は以前もそのようなことを申しておったな」
「だって……今の私が生きている理由だもの。愉悦を知れって言ったのはギルでしょ。私にとっての愉悦は、あなたがいなきゃ始まらない」

 そう言って、うつ伏せになり腰を突き上げる。……しらのに比べたらこの尻もまた貧相な肉付きなのだろうけれど、そこはそれ。後ろを振り向きながら私は彼に希う。

「ね……いっぱい気持ちよくなろ……」

 するとギルガメッシュは立てていた膝を折り曲げて私に覆い被さる。それからすぐに彼の陰茎が私の陰部へと挿入されていくのがわかった。彼のクンニリングスでびしょびしょになった陰部は抵抗なく彼を受け入れていった。あ、と声を漏らしつつ異物感に耐えている内に僅かに体位を変えられる。俗に言う寝バックという体勢、なのだろうか。ぴんと張った私の脚に彼の鍛えられた脚が絡む。

「動くぞ」

 突然耳元で囁かれた驚きよりも、彼の吐息の熱さに耳が感じて背中が反った。そのままゆっくりと彼の腰が動き始める。

「奥と浅瀬、突かれたい方を選べ」
「あ……好き、そこ好きっ、選べな、……ぁ……」
「強欲め」
「ん……だってギル、どっちもしたい……っ、でしょ……」

 彼の陰茎が膣壁を擦る。浅いところと深いところ、どちらもいつ突かれてもびっくりする程気持ちがいい。一緒に乳首を捏ねられ、耳を舐め回されて、一体自分が何に感じているのかわけがわからなくなってしまう。

『んっ♡ パパっ♡ だいすき♡ あっ、ああっ、そこいい、んっ♡』

 私の控えめな声とは対照的に、画面の向こうのしらのは甲高い嬌声を上げている。ぱちゅぱちゅと音が鳴っているのは一体画面からなのか、それとも私達の結合部からなのか。……どっちでもいいか。だって、今私が、私達が気持ちよくて堪らないことに変わりはないのだから。

「あっ……いっ、く……」

 浅瀬を中心に擦られている内に、軽い快感が腰の辺りに充満する。だが、びくびくと内壁を震わせているにも関わらずギルガメッシュはピストンを止めない。止めないどころか更に深く奥へと、ぐりぐりと亀頭を擦り付ける。

「ん、だめ、だめぇ……今いったの、いったから……」
「達したから、何だというのだ」
「や、やぁ、へんになっちゃう、あ、ああっ」

 ギルガメッシュは反射的に逃げ出そうとする私を腰から胸にかけてしっかりと抱きすくめて離さない。……腕の力の強さにじんわりと嬉しさが込み上げる。いつも言動も行動も意地悪だけど、言外に彼のぬくもりが伝わってくるからずるい。ずるいけれど、そんなずるさにすっかり手懐けられた私も私だ。でも、もうだめなのだ。ギルガメッシュじゃなければ。彼と共に在る自分でなければ嫌だ。そんな情が、胸の内を支配している。

「あっ、いく、いくぅ、ギル、ねえっ」
「ああ、好きに達すれば、よいっ」
「ん、ねえ、ギルもいっしょに、あっ、あ、あ……いくっ」

 深い快感の渦に呑まれ、私はびくびくと体を震わせる。彼からは返事の代わりに、膣内へと子種が注がれた。……もちろん、電脳世界でのセックスで生殖は行えないのだけれど。そもそも半神半人である彼とただの人間の私の間に、単なるセックスで子が成せるとも思えないのだけれども。兎にも角にも、私の内側は、彼の快楽の証で満たされた。その事実に深い安心感を覚える。

『はぁ……はあ……♡ パパ、気持ちよかった……♡』

 テレビの中のしらのも私達と同じく達したようで、汗でぐっしょりとした前髪を指で拭いながら微笑んでいる。その顔を映した後画面は静かに暗転していき、ビデオのチャプター画面へ切り替わる。

「ねえ、ギル」
「何だ」

 未だ陰茎を抜かず、胸の内にある私の体を弄んでいる彼に声をかけ視線を遣る。

「……やっぱり、ギルはパパじゃないね」

 そんな当たり前のことを言うと、「当然のことを口にするな」と、こつんとおでこをグーで弾かれた。

『ああっ……っあ、らめぇ♡ 頭らめになっちゃう♡』
「ほう、触手か。確かにこの星の生命体は七割が人型らしいが、そうでないものもいる。このテーマの映像は地球では実写化が難しかろうな」
「いつまで見るのこれ」

 そうしてセックスを終えた後、私達はピロートークの代わりに敷波しらのの出演作品を延々と観賞していた。そもそもピロートークなんて甘ったるいものがかつて私達の間に存在したことはなかった気がするが、問題は多分そこではない。

「何だ貴様、仮にも自分のドッペルゲンガーと出会っているのだぞ? 興味が湧かぬのか」

 そりゃあ言い伝え通り出会った時に死ぬんだったら話は別だ。だけどまあ、今回は画面越しだし。……というかこの王様、私に羞恥心というものが備わっていることを忘れてはいまいか。

『いくっ♡ あっあっ、あ゛あ゛っ、お゛、い、いぐぅっ♡』

 しらのの絶頂する姿を眺めながら、私は身体から冷めていく熱の行方を思う。しらのは画面越しの私の熱すら吸収して演技しているのだろうか。誰に消費されるともつかないテレビの向こう側で、望まれるがままに微笑んでいるのだろうか。

「……彼女は何で女優になったんだろう」

 特に返答も求めぬまま独り言ちる。だってそんなの、ギルガメッシュでさえ知る筈もないことだ。ただ、観客席についている私は想像してしまうだけ。私と同じ顔をした誰かが、どんな人生を歩みここに至ったのか。そしてこれからどこへ行くのかということを。

「さてな。我の千里眼で視えるのは、我等がこれ以上彼奴に関わることはないということだけだ」

 彼の素っ気ない言葉を幕切れとして、目の前のビデオの再生も止まる。チャプター画面が映し出される前に、彼がリモコンでテレビを消した。

「そろそろ休むとするか。明日は隣国へ出立するぞ」
「うん。何か、急に眠くなってきちゃったな」

 それも当然かも知れない。いつもと趣向を変えたセックスの後延々アダルトビデオを回していたのだ。身体だけでなく目、というか頭も疲れた気がする。捲った布団の中に二人で滑り込み、ギルガメッシュが部屋の灯りを消す。

「おやすみ、ギル。明日もよろしくね」
「ああ。よく休め」

 彼の身体のぬくもりを隣に感じながら、私は瞼を閉じる。けれど未だ瞼の裏に浮かんでいたのは、私と同じ顔をした敷波しらののことだった。
 本当の名すらも知らない。過去もわからなければ、現在だってビデオの中で創り上げられた虚構でしかない。それが良いことなのか悪いことなのかも、判断できる立場に私はいない。

(……それなら)

 せめて彼女がこれからの未来、幸せでありますように。画面越しでしか出会えない彼女にそれだけ祈って、私は暗闇の中に意識を手放した。

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