
Fate/Grand Order
恋をしないメルトリリスとマスターの話
私がこの姿を得たことに最も驚いたのは、私ではなくマスターその人だった。
もちろん、私だって随分と驚いた。こんな衣装、こんなチュチュをよりにもよって私が着ることになるだなんて皮肉だわ――一瞬、そんな自嘲すらしかけた。――だけど〝一度終わった〟私なら、このチュチュで身を包んでも許されるのかも知れない。
「あなたが欲しいのはより強いお人形? それとも新しい姿の私?」
そんな希望が胸の中で沸き立ちながら、いつも通り強気な視線を彼の方へ流したとき――私の瞳に映ったマスターの手は震えていた。
「マスター?」
彼に再び問いかけると、はっと我に返った様子で彼は「ご……ごめん、見惚れちゃったよ」と恥ずかしそうに、彼は頭をかいて笑った。けれど依然として彼の肩は少しだけ震えている。その意味に気がつけないまま、私は「……ま、当然よ」と目を伏せた。
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彼は元から奇異な人間だった。そもそも本来はサーヴァントではなく、人間を否定する為に造られた私達を召喚したがるなんておかしな話だと今でも思う。けれど、召喚に応じてあげた時――心底会いたかったという顔をして、くちゃくちゃの笑顔を彼は私に向けたのだ。
私がサーヴァントとして召喚される可能性を作ったのはBBらしい。BBが月から派遣されてくるなんて余程切羽詰まっている状況なのかしら、このカルデアという場所は。なら私という怪物もなりふり構わず召喚したがるだろう、そう最初は考えていた。刃物のヒールに刺の脚。触れるもの全てを溶かす毒。兵器としての制圧力以外、私が人間に求められることはない。けれど――暫く彼と共に戦いを続ける内に、どうやらそういうことでもないらしいことがわかってきた。
「俺はただ、メルトが好きなだけだよ」
二人でちょうどマイルームにいた時、恥ずかしげもなく、けれど茶化すわけでもなく、私に向かってそう言い放った彼の瞳の青さが今でも眩しい。
「……そ。言っておくけど、私はあなたを好きにはならないわよ」
その青に眩みかけながらも、私は目を眇めて返答する。当然の答えだと思った。けれど、彼は「そ、そっか~……」とこの世の終わりのような声を上げて腰かけていたベッドに倒れ込む。「ちょ、ちょっとやめてよ」と彼に近寄りかけたけれど、こつこつと床を傷つけるような踵の足音を耳にして我に返った。万が一にも彼を傷つけることのないように、私はどこに在っても彼から一定の距離を取ることにしていた。
「……仕方ないでしょ。私の恋の在り方は、相手を傷つけるだけなんだから」
「こ、恋!?」
「何かおかしなことを言ったかしら?」
「いや、……ああでも君は人間じゃなくてアルターエゴだもんなあ。BBも前にそういう言い回しをしていたような気がするし、うん」
何事か戸惑った様子の後、そうして一人で納得している彼を横目で観察しながら私は物思いに耽る。……認めるのは何だか悔しいけれど、そうして彼から好意を向けられるのは嫌じゃない。本当に……以前の私ではあり得なかったことだ。BBから生まれ、自分だけの恋を見つけ、その恋に殉じた月のエトワール。けれど私の物語は既に一度完結している。今の私はその物語に付けられた蛇足のようなもの。夢を見ているようなもの。
――ああ、けれど。夢を見たところで、私の怪物性は変えられもしない。だから、私はあなたに恋をしない。できる筈もない、そう思っていた。
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