警視庁へと戻り、私達は検視官へと採取した資料を引き渡す。この世界の法医学がどれだけ発展しているのかよくわからないが、これでデッカードに頼まれたミッションは完遂である。彼の用事もそろそろ終わっている頃合いだろう。私達は彼の執務室へと踵を返す。
その瞬間、ギルガメッシュの端末がコートのポケット越しに振動した。
「何だ。既に我等は庁舎に戻って──」
デッカードかららしい。と言っても、私達の端末に電話をかけてくるのはデッカードだけだが。不意に言葉を切った彼を見上げると、ギルガメッシュは珍しく僅かに目を見開いていた。
「ギル?」
少し心配になって彼を呼ぶと同時に、勢いよく階段を駆け下りてくる足音が聞こえる。足音の主は、キャメル色のトレンチコートを羽織りながら肩と耳に端末を挟んだデッカードだった。
「すみません、急いでください!」
「な、どうしたの」
「──どうやら少しばかり漫遊しすぎたようだ」
デッカードが普段纏った優雅な空気が随分と尖った、硬質なものに変化している。それだけでも思わず背が張り詰めてしまうのに──ギルガメッシュもまた、先程あの部屋の中で見た笑みが嘘のように消え失せて、ルビーの双眸がぎらりと刃の如く煌めいている。
「特殊部隊出動命令が出ました。これからタイレル社に急行します。──J-007と思われるレプリカントが侵入しました!」
駆け寄った私達を見つめ、黒革の手袋を嵌めながらデッカードはそう告げた。
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