歌舞伎町から自由へ道連れ - 4/6

 下着のホックを服の中で外されるとちょっと、変な気分になる。寝転がりながら口付けを交わしている間に彼の手はスカートをすり抜けてお尻の肉を掴む。「あうっ」と思わず変な声が出たところですかさず下着を引き下ろされ、中に分け入られた。すぐにぐちゃり、と聞くに堪えない水音が彼の指の先から漏れる。

「おい。どうしたこの洪水は」

 ……答えられない。確かに指を舐められてからというもの、腰のあたりがもぞもぞとはしていましたが。改めて聴くと自分でもおかしいと思うほどギルガメッシュを欲していたらしい。「これでは前戯もいらぬな」と煽る彼に「えっやだ、ちゃんと触って」と反射的に首を振ると、彼は満更でもなさそうに部屋着を脱ぎ、ベッドの背にもたれかかる。つられて起き上がると更に体を引き寄せられた。
 密着度の高い姿勢は心地よくて好きだ。彼の上に跨るようにして脚を開く。肩に両手をかける前に彼の手が私のセーラー服を掴んで上へ引き上げ、上半身は何も身につけていない状態になった。こうなってもまだスカートだけ穿いたままなのは変な感じがしたけれど、ただ今は燃えるように下半身が彼を欲していてそれどころではない。
 中を押し開く彼の指を咥え込む。一気に二本入れられても何も痛くなかった。敏感な突起を潰されながら中を刺激されて、それだけで肩にかけた手が力んで息が荒くなる。刺激の与えられ方はどう考えても普段より激しかったのに、いつものようにやめてと口だけの抵抗をする気にすらなれない。寧ろ今の私の体はただひたすら快楽を受け容れる器として機能していた。

「あ、ぁ……んっ」

 すぐに彼の指だけで軽い絶頂を感じたが、欲動はまだまだ堰を切って溢れ止まらない。もっとだ。そもそも彼の芯で貫かれなければ本当は満足出来ないのだから。触ってほしかったのは、ただ私が強欲だからであって。

「挿れるぞ」

 徐にジッパーを下ろして現れた彼の自身の大きさにはいつも息を呑んでしまう。快楽とそれによる多幸感やら物ほしさやらにぼうっと揺らぐ体を持ち上げられて、そこにあてがわれた。そのまま重力に任せて落ち込む。

「んぁ、い、いっちゃうっ」

 彼の芯がぴったり収まっていくのを感じながらぎちぎちと中を締め付けた。挿入された感覚だけで達するなんて──どうして今日に限ってこんなに我慢が効かないのだろう。というよりここまで自分が感じやすかった事実に驚く。自分なりに人間としての尊厳を保とうとした結果、欲に呑まれることはあっても、ここまで矜持も何もなく彼を求めたのは初めてだった。理性を失いかけている自分を恥じる気持ちこそあれ、そうした浅ましい自分を隠したいという思いも、「気持ちいいのは好きだ」という自分自身の発した言葉に吸われて、小さくしぼんでしまっている。

「今日、何か私変……」

 素直にそうつぶやいた瞬間。彼の纏った空気が、変質した気がした。

「であろうな。これで岸波白野はただの女に成り下がったのだから」

 ──それは驚く程意地悪な声音だった。

 優しさも親しみやすさも全て削ぎ落とした怖い男の声。激しい不安の波が私を襲った。彼が彼でなくなったような。いや、そんな感想を抱くのは間違っている。ギルガメッシュは何も変わっていない。変わったのは私の方だと、彼の視線はそう訴えている。どうしてそんなことを言うのか、感情のまま反駁する前に彼の手が腰にまわり、私の体を引き上げては落とす。彼の態度の恐ろしさに竦みながらも、その行為が齎す悦楽に捕らわれて離れられない。

「ど……ういうこと」
「今の貴様はただ我欲に溺れたいだけの女。いや、肉だ」

 彼の口角はつり上がったままだが、本当に笑っているのかどうかよくわからない。ただ目の前で何か、審判を下そうと私の様子を窺っている。何を言おうとしているのだろう、この人は。早く快楽を得られなければ気が済まないと訴える体と、それを必死で押さえつけて彼の真意を探ろうとする理性の狭間で私は揺れる。

「ん、そんな……それはっ、ちがう。私、は、ぁ」

 何とか絞り出した抵抗の声には全く力が入らない。だって、私はどうしてもこの欲を満たしたい。そしてその欲を満たす為に彼との交わりに夢中になっている。それは否定したくてもできない事実であり現実だ。だけど彼の意地悪な言葉と、私の思いは漠然と違うと思った。震えて今にも動きたいと叫ぶ腰を押さえつけ、鼻の先で向かい合う彼を睨みつける。

「では何故抱いて欲しいとせがんだ。つい先刻告白したではないか。自分は強欲だと」

 そう、だ。私は確かに欲深い女だ。だってこんな言葉を彼に吐かれながら、私の体は興奮している。このまま彼に何もされないではいられない。だって彼が欲しいのだから、仕方がないじゃないか。だから彼がそんな言葉を発するのが許せない。……悔しいことに、反論の言葉が思い浮かばない。それに、この体を理性に従えない限り何か言ったところでそれは意味をなさないだろう。口を噤んだまま、ただ違う、と目で訴えたが彼の表情をが変わる様子はなかった。

「そら譲ってやる。好きに動け」

 急に腰の動きを止め、彼は顎で私に促す。──そう言われても、動くわけにはいかないと最後に残ったか細い理性の糸が引き止める。ここで動けば彼の描いた筋書き通りだ。身を固くしたままひたすら反論を思案していると、再び腰を持ち上げられて理性の一角を突き崩された。「ひゃんっ」だなんて聞き苦しい喘ぎはますます抑えられなくなって、息もどんどん上がっていく。このまま動いてしまえば満たされるのに、動けば自分のなけなしの矜持は台無しで、けれど彼の与える快楽は遠まわしに私を弄んで離さない。腰を支えていた手が離されたかと思うと一方の手で乳首をいやらしく摘まれて、反対には背中をつと撫でられる。首を振って嫌がる私を制す彼の唇は頬を這い、敏感になった耳を突然食んだ。

「ぁあ……っ」

 体へのばらばらの刺激に呼応して、私の疼きはどうしようもなくなった。たまらずに腰を前に突き出したとき既に理性は欲望の奔流に呑まれていた。ただ自分の思うまま一番好いところに彼の芯を擦りつけて見苦しく喘ぐ。ひたすら目を瞑って、彼の肩口に頭を押し付けていないと自分の浅ましさに堪えられなかった。だって違うのだ。確かにこれは我欲としか言い様がない、だけどそれだけのものでは決してない──そう思いながらも今はただ上り詰めなければ気が済まない。彼の肩に指を絡めて何度も何度も、機械のように気持ちいい、と繰り返した。そうやって言葉にしたところで何にもならないというのに、自身に言い聞かせるたびに自分の快感の余波が全身へと広がっていくような気がして。

「んっ、ん、ああっ」

 荒げた息が一際悩ましく漏れて、自分の中がじくりじくりと痺れる。耳が瞬間的に聞こえなくなって、すぐにふわりと彼の呼吸音が傍へと戻ってくる。その時になって漸く私は腕を緩めて彼と向かい合う余裕が出来ていた。

「──ごめん。完全に理性が吹っ飛んでた……」
「ふん、盛りのついた猫め。実に情けない痴態であった」

 そう言う彼のそれはまだ何も中に吐かないまま蠢いている。やってしまった。考えなしに動いて一人で気持ちよくなって、──こんなの、本当に求めてるものとは違うのに。思わず俯こうとするのを許さないとでも言うように彼は深く唇を合わせてくる。やっぱりいつもより舌の絡め方が激しい。それに、先刻酷い言葉を滑らせたのと同じ口でそんなことをするのは反則だ。そう思いながら上も下もどろどろと液体が混じり合っているこの状態に、結局私の奥も再び反応してしまうわけで。自分の見苦しい欲の深さをただただ実感して居た堪れなくなる。

 ……想像以上に、何かよくない方向へ自分を開放してしまったのかも知れない。これが彼の言う「女」なのだろうか。行為自体は今までと何一つ変わらないのに、彼の私を名指す声を受け容れたばかりに、とんでもないことになってしまった。

「言ったであろう、女でないものには戻れぬと。貴様はもうそのつまらぬ自意識から逃れられはせぬし、知ってしまった快楽に際限なぞない。その身は既に注がれるものを求めてやまない女の器だ。それでも尚全てをかなぐり捨て欲するか」

 唾液まみれの唇を離して、ギルガメッシュはあいも変わらず無色の表情に笑みだけ浮かべている。──何でこんな急に理不尽なことを言い出すんだ。そう言いかけてさっきの自分の考えていたことを思い出す。ギルガメッシュという存在は理不尽そのもの。いくら近づいたところでいつ嵐のように私に困難を突きつけておかしくない。理由なんてない、ただ私の言い出したことがたまたま彼の気分とかち合っただけのことだ。そして返答次第では私に興味を失って、そのまま切って棄てられる可能性すらある。……つくづくとんだ人に自分の命を預けてしまっていると思った。

 それでも私は、彼の態度と【岸波白野】という定義にやきもきする気持ちが止まらない。あなたは間違っていると彼に告げるのは、多分自殺行為だ。だけどこれを抑えたらそれこそ彼につまらないと笑われてしまう。
 そう、今のでわかった通り私は思った以上に我慢がきかない。彼に与えられた愉悦はもう忘れられない。自分の体が女であるという事実ならば、それはもうどうあってもこの身につきまとう。
 ──でも、私が求めているのは決して単なる肉欲だけではないと思う。だってそれならさっき、自分が好き勝手に動いて達した時点で満たされているからだ。でも私はまだこんなに不満足で……冷や汗と恐怖と変な動悸に満たされながら、尚も体は熱を持って彼を浅ましく求め続けているわけで。

 つまるところ、私が欲しいものは、私の一人相撲では満たされないのだ。私が空っぽの器でしかないというなら、彼にずっと満たしてもらわなければならない。彼の与えてくれるものはもっと好いものじゃないといけない。そう、漠然と思った。

「反論させて」
「何だ」

 彼を改めてまっすぐ見据え、手を彼の胸板へとそっと当てる。

「私は、ギルに抱かれるのが好きなの」

 そう、うまくないのだろうけれど、頭に浮かんだ言葉を素直に口にした。彼が言ってくれた通り、自分の言葉で彼の心が動くことを期待しながら。膨張している彼の芯の熱に浮かされ、立ち込める下半身の欲をどうにか塞き止めて絞り出す。

「私一人だけ体の欲を満たしても意味がない。一瞬だけ満たされても、それだけじゃ満足出来ない。ギルも一緒じゃないと嫌だよ……」

 芯をおさめた中を堪らず何度も締め上げながら、私は浅ましく彼に縋る。そうだ、これじゃ彼に抱かれている意味がない。本当は体で確かめなくとも彼との繋がりは強く感じられている。彼がこうして今私の傍にいてくれるだけで奇跡なのだと、それこそが手に収めておくことを許された唯一の成果なのだという自覚ははっきりある。
 それでもやっぱり彼に抱かれるのは気持ちがよくて、彼の方も気持ちよさそうで。その事実がとても愛おしくてもっと彼のことが知りたくなるし、欲しくなる。岸波白野が求めているのは、何がなんでも手に入れなければ気が済まないと思うのはそういう手応え。一度知ってしまったからにはもう手放すことの出来ないもの。彼からの言葉。反応。私の名を呼ぶ声。その先にある確かな信頼。そういうものが混ざり合いせめぎ合いながらこちらに流れ込んでくるのを感じられる行為が、彼との交わりだと思う。だからこそ私はこんなにも、彼に抱かれるのが好きなのだ。

「私は何も貰えなくたってあなたを求め続ける。でもひとつだけ……あなたの愉しみだけは、どうしても欲しくてたまらない」

 そう告げたとき、彼の透明な表情の中にはるかな彩が生まれた気がした。

「……はっ」

 溜めていた息を吐き出したのを皮切りに、ギルガメッシュはおかしそうに、けれど何を馬鹿にするでもなくははは、と笑い出した。そこには屈託も含みも、いつもの底知れない恐ろしさも何もなかった。息を呑む。私はこの顔を見たことがある。
 ──いつか彼の夢で見た、「何もこの手には残らない」と笑った表情に、そっくりだったから。

 そのまま腰を持ち上げられてベッドに体を倒される。見上げた先の彼の顔の輪郭が私に覆いかぶさって、不思議と安心感が私を包んだ。

「よい。その心に免じて先の不遜を許そう。我の目も些か狂ったと見える」

 微塵もそうは思っていない様子で、彼は再び口づけを落とした。

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