Ⅱ 被造物に魂はない - 2/4

 絶え間なく雨粒を拭い続けるワイパーの隙間から、夜でもないのにちかちかと発光しているネオンに目を細めている内に目的地は近付いていた。「着いたぞ」と彼がブレーキを踏むと、再びスピナーは回転を始め地へと下降する。

 車のドアを開け、建物の入り口へ向かうと既にデッカードが待ち受けていた。キャメル色のコートを纏い、傘と鞄を手にした彼は如何にもこれから外出する風体だ。

「おはようございます。早速ですが、車に乗ってもらえますか? 説明はその中で」
「貴様には執務室すら与えられていないのか?」

 真正面から皮肉るギルガメッシュを「きちんとありますよ」と笑顔で躱し、彼もまた外へと踏み出す。

「あなたがたとお会いする以前からこの時間にアポを取り付けていたので。と言っても、僕から説明することはあまりありません。僕達はこれから説明してもらう場所に行くんですから」

 言いながらデッカードは入り口の傍に停めてあった警察車両らしいスピナーの鍵を開けた。今回運転席に座ったのはデッカードだ。助手席にギルガメッシュ、後部座席に私が乗り込むとすぐにエンジンがかけられ、スピナーは発進準備を始める。

「説明してもらうって、どこに?」

 旋回したあと、ハンドルが切られ空を飛び始めたスピナーの中、私はデッカードに素朴な疑問をぶつける。彼はちらりとこちらを振り返ったあと、すぐ車の走る方向へ視線を向け直し返答した。

「タイレル社──この国で唯一政府から認可の下りたレプリカント製造業者です」

 彼はそう言ってすぐ、「あちらです」と掌を左斜め前へと差し出す。その手の指し示す先には、先端を均したピラミッドを何層も複雑に重ね合わせたような、台形型の大きな建造物が聳え立っていた。周囲の高層ビル群に比べても一際幅広で背が高い。旧時代の遺物のようで近未来的でもあるその建物は異様な迫力を漂わせている。

 あれが──この世界で唯一のレプリカント製造業者、タイレル社。

「僕達がこれから面会するのはタイレル社社長。まず、彼に脱走したレプリカントのデータを見せてもらいましょう」
「前任者がいたのだろう。貴様の方で資料はないのか?」
「もちろんありますよ。ですが、僕が説明するより遺伝子工学の権威に説明された方がいいでしょう? それに、僕達がこうして足を運ぶのは彼にただ資料を見せてもらうためではありません」

 ギルガメッシュの的確な指摘に対してもふふ、と紅茶でも飲むような優雅さで微笑んでみせるデッカードはやはり余程の大人物に見える。

「……何のために?」

 デッカードに再び問うと、ハンドルを切りながら彼は静かに答えた。

「彼が事件に関与していないか確認するためです」

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