ACT.3/エピゴノスは夢を見ず - 1/9

 こんな夢を見る。映画館でたった一人、ビデオを繰り返し再生する夢だ。画面の中では庭園に植わるリラの木が切り倒されている。見ている内に段々と、それがただのリラではなく、三十年前妻と結婚した時に庭へと植えたものだと思い出す。半生を共に歩んできた幹が、穂のようにまとまって見事に咲いた純白の花が、無惨に折れ地に崩れていく。そんな十秒にも満たない単調な映像が延々と投影され続けている。

 もうやめてくれ。わしにこんなものを見せてくれるな。心ではそう思っているのに、今にも立ち上がって劇場を後にしたいのに、身体は動かない。そのままスクリーンに釘付けにされていると少しずつ、フラッシュが焚かれるように映像がぶれていく。そのうちに木の幹が段々とよく見知った女性――妻の身体へと入れ替わっていく。腹部にナイフを突き立てられ、血を流しながら彼女は倒れ込む。――彼女と、画面越しに目が合う。

 ゆ、る、し、て、あ、な、た。

 唇の動きは読めるのに、声だけが聞こえない。そのまま彼は何事かを叫ぶ。妻の名を呼んだのか、それとも何か別の言葉を口にしたのか。起きた後は思い出せなくなっている。

 ――許して、あなた。

 彼女自身が本当にそう言ったのか、それとも自分の妄想から生じた幻覚か。判別はつかないまま視界がぼやけていく。夢から醒める合図だ。だが、目覚めても夢は続いている。瞼の裏には彼女の唇の動きが一分も違わず焦げ付いている。

 その影の示す意味を、自分は知らねばならない。

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