another spectrum (ACT.4)
「ありがとう。あなたに出遭えてよかった」 ――笑顔だけを残して、少女は海に還っていった。 聖杯の炉心、ムーンセル・オートマトンの中枢部。別称・熾天の檻アンジェリカ・ケージには海水が満ち、視界は光のスペクトルの中から散乱したコバルトブルー一色…
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ACT.5/有終の美
水気を帯びないからりとした風が私の毛先をさらっていく。照りつける陽射しは相変わらず容赦がない。遠くの地平線へ目を懲らすと、空中に砂の山々が連なる不思議な景色が拡がるのが見えた。――蜃気楼だ。母国にいた頃はあまり馴染みのない現象だった気がす…
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ACT.4/海のそこで待ち合わせ
命が海から生まれたというのなら、私は今母の中にいる。 私が生まれた場所であり、そして今再び生まれる前へと戻る場所。――ムーンセル中枢、熾天の檻アンジェリカ・ケージの深い海の中。人肌のようにあたたかな海水に満たされながら、沈むことも浮き上が…
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ACT.3/エピゴノスは夢を見ず
こんな夢を見る。映画館でたった一人、ビデオを繰り返し再生する夢だ。画面の中では庭園に植わるリラの木が切り倒されている。見ている内に段々と、それがただのリラではなく、三十年前妻と結婚した時に庭へと植えたものだと思い出す。半生を共に歩んできた…
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ACT.2/ラストメロディー
ブーゲンビリアの咲き誇る生け垣を通り抜けた少女の視界に広がったのは、滑らかな白の砂浜とトルマリン色で満たされた海原のハイコントラストな絶景だった。黒い岩礁に打ち上げる波はぱらぱらと、宝石のように砕けては消えていく。その様を一目見て彼女が抱…
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ACT.1/名も無き幼い詩
空が焼けている。家が熔けている。人は潰れている。路は途絶えている。 これが戦いの源泉。これが贖罪の原風景。 ここで『彼』は、ただ一人生き延びた。 忘れるな。 忘却は至上の救いであり、最悪の罪である。 忘れるな。 地獄から『彼』は生まれた。…
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