ダチュラの偶像 - 1/5

 曰く、天上には曼陀羅華と呼ばれる花が咲くという。釈迦や如来の説法にて、天より降り注ぐという美しい花。地上の花でたとえるならばその形は朝鮮朝顔であり、別名をダチュラ。──あなたは、ダチュラのようなひとだった。

 そうあなたに伝えると、あなたは「もったいなきお言葉にございます」と顔を赤らめて、まるで少女のように恥じらった。「勉強した成果を披露しただけですよ」そう格好つけて嘯くと、彼女は「ですが──確かに、そのようにありたく思います」と真っ直ぐこちらを見返した。

 彼女──殺生院キアラを知ったのは、彼女が世界的に有名な霊子ハッカー、そして電脳セラピストになる少し前。二年前、ちょうど働き詰めで心身共に体調を崩しかけていた頃、友人であった医師の紹介で彼女の診察を受けることになった。無論、当時の俺は彼女に癒しを求めていた。だが一応俺も霊子ハッカー、それも同じ医療ソフトの開発エンジニアの端くれだ。単純に、五停心観という画期的な医療ソフトを開発した彼女と話をしてみたいと思った。

「あら、わたくしと同業の方でしたか。……これまで大変でしたでしょう。どうぞ、私に何でもお話しになってくださいましね」

 彼女に初めて見えたとき──友人から聞いていたよりずっと美しい人だ、と思わず心が熱くなった。こんな美しい人に俺は今まで出会ったことがない。真っ白な花。穢れなき衣。それでいて蜜のように甘い匂いが電脳空間の無機質である筈の部屋に充満して──俺は一目で彼女に心を奪われていた。

「これが五停心観……実際に体験してみると本当に効果的ですね……」
「ありがとうございます。あなたのような方に言っていただけると開発者冥利に尽きますわ」
「いえ、そんな! 俺も今に甘んじず技術を磨いていかなくてはと思わされましたよ」

 自分と同い年か少し上というだけのキアラも、こうして活躍し人の役に立っている。俺もまだまだ修行が足りないなあと頭をかくと、彼女は柔らかな微笑みを浮かべて俺の心を見透かしたように言葉を継いだ。

「ふふ……お仕事にはお疲れでも、ハッキング自体はお好きなのかしら?」
「は……はい! と言っても、大したものはまだ作っていませんが。プライベートでちょっとしたコードキャストを作るくらいで」
「まあ、それは素敵ですね。ぜひ拝見したいものです──」

 彼女の治療は疲れ切った俺の心を柔らかく、的確に癒した。何より、ソフト開発についての談話では随分と長く話し込んでしまったように思う。彼女の発想は当時会社の奴隷のようになっていた自分からは出てこない斬新なもので、俺の開発者としての魂を再び燃え上がらせてくれた。──このカウンセリングをきっかけにして、俺は数か月後会社を辞めてフリーランスになった。彼女との邂逅が、俺の人生を大きく変えたのである。

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