それから、彼女と俺の距離は日増しに近くなっていった。彼女が基幹の開発を行い、俺が部品を開発しつつ出たバグを修正する。彼女の天才的とも言うべき処理能力の高さに驚きながらも、俺は彼女に食らいつこうと必死だった。俺はあなたと同じ景色を見つめていたかったから。それは、仕事場でも閨の中でも変わらない。
「あ……ああ……」
キアラの中を何度も責め立てながら、それでも俺は未だ満たされない。こんなに柔らかで熱い彼女の全てを味わいながらも、もっと、と求めている己がある。
「キアラ様……っ」
「あ、ぁあ……もっとくださいませ……あなたの、全部……私に……」
「あなたこそ……! 俺に、ください……! あなたの全部を……俺は全部、捧げて……」
ぎゅっとキアラの膣が引き締まり、俺の芯から欲望が漏れ出す。そのまま我慢できなくなって彼女に全てを注ぎ込むと、彼女は股を開き切ったまま満足そうに口元に手を添わせる。あられもない恰好でありながら、その仕草はひどく楚々とした少女らしさが感じられた。
「それは無理なのです」
「どうして……」
「私はあなたを受け容れましょう。文字通り、心も体もすべて。ですが……捧げることはできません。私はあなただけでなく、一切の衆生を救わねばならない」
彼女の言葉は、道理にかなっていたと思う。彼女は確かに俺のものだ。俺だけのものじゃない、というだけで。彼女に集る有象無象の信者達、それを癒すのもまた彼女の仕事なのだ。
だが既に俺の心の箍は外れていた。彼女と仕事をすればする程、彼女を抱けば抱く程、彼女に届かないことがもどかしくなる。だって、あの時は確かに届いた。あの万色悠滞で──俺とキアラは一つになったのだ。
そうだ、万色悠滞だ。俺達が開発しているこの医療ソフト。禁断のコードキャスト。全てはこれから始まった。これが完成すれば。俺はあの人と無限に溶け合っていられるだろう。身体のまぐわいだけでは届かぬ境地に、至ることができるだろう。それに気がついてから、俺は一層ソフトの開発に励むようになった。彼女の為に。そして、俺自身の為に。万色悠滞は必要だ。キアラを、俺だけのものにする為に。
✦ ✦ ✦
半年が経過し、遂に開発は終了した。適用時間を大幅に拡大し、使用者と患者どちらへの負荷をも軽減した医療ソフト「万色悠滞」はここに成った。
すぐに教団内で大規模な接続テストが行われることとなった。使用者は俺を含めた教団員十五名。そして被験者は殺生院キアラ、その人だ。
「皆さま、呼吸を確かに。私の教えた通りに、私のもとへおいでくださいませ」
既に電脳世界にアクセスしていた俺達は、目を閉じて自分自身にインストールしたそのソフトを起動する。だんだん溶けていく自我、思考。それ抗わぬようただ無心で集中する。
──そして、気がついた時俺達はキアラの内にいた。
肉壁のようなあたたかな桃色の空間にくらりと眩暈が起こる。──そんな俺をクッションのように支えたのは、壁そのものだった。
「さあ──あなたもおいでなさって」
ああ、壁からキアラの声が響く。恍惚とした意識のまま俺は彼女に手を引かれるように導かれて歩いていく。そうして見えてきたのは──天上の地獄、だった。
「あ゛……ん゛っ……やめないでぇ……もっと……!」
キアラは、教団員達に姦淫されていた。
彼女に這った手、手、手。彼女の髪、目、耳、唇、首、腕、胸、腹、膣、尻穴、脚、ありとあらゆるすべてを犯されている。老いも若きも男も女も、全てが彼女一人に群がっている。
「キアラ様……キアラ様……」
「どうか私を、救って……」
人間の体液がぐちゃぐちゃに交わり、狂瀾の宴が繰り広げられているのを俺は正気を奪われながらも、ただ見つめていた。今すぐ俺もあの女を犯したい。そう渇望している筈なのに、体が。動かない。動けない。
だって。今動いてしまえば。俺は、あいつらと同じモノに成り下がる。
「ああ……来てくださいませ! 早く、私の中に……!」
快楽を貪りながら、キアラが咆哮を上げる。その声に意図せず身体が──魂が動いてしまう。ああ、俺は。俺だけは、違う筈だった。俺はあなたと同じ景色を──、あいつらとは──。
一歩。また一歩とにじり寄り、遂に誰のものだかもうわからない息遣いが肌にかかるところまで彼女に近づく。彼女の琥珀色の瞳は固まり切らない蜜のように甘い芳香を放っている。──そうだ。彼女は既に人の様をしてはいなかった。……花だ。いつか彼女に話したことがある。釈迦や如来の説法にて、天より降り注ぎ人々の心を愉しませるという美しい花、曼陀羅華。ダチュラ。彼女は、ダチュラになっていた。
その花の蜜を、吸う。舐める。花びらに口づける。
瞬間。以前味わった、あの万色悠滞とは比べ物にならぬ程の随喜が、俺を襲った。
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