視界を満たすは目の醒めるような眩い黄金。呼吸するだけで明滅する光が体の中まで拡がっていくような、不思議な感覚に思わず震えた。見上げた先には太陽も月もないけれど、代わりに美しい星々の描くオーロラがスプレーを散らしたみたいに空を彩っている。
『──』
聞き覚えのあるようで、ない気もする声が私の鼓膜を撫でる。傍を振り向くと誰かがいることがわかったが、急に視界がぼやけて何も見えない。どうやら「私」はみっともなく泣いているようだった。涙はもちろん鼻水だって垂れ流し。生まれてこの方私はここまで大泣きしたことなんてない。だけど──すぐにわかった。「私」は悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて、涙が止まらないんだ。
『──!』
袖で顔をぐしゃぐしゃに拭った後、「私」はくしゃくしゃに引き攣れた笑みを浮かべる。……我が事ではあるが、私は何て笑顔が下手なのだろう。だけどちょっとだけ羨ましい。目覚めてから一年と十か月、こんなに感情を露わにして嬉しがったことは私にはまだないから。
一体何があったのだろう? 「私」はどうしてこんなところにいるのだろうか。
✦ ✦ ✦
「……」
そんな疑問を懐いたところで、夢は唐突に終わった。朝の光にぼんやりと意識が覚醒していく。
寝起きはあまりよくない方だと自覚している。見た夢だって覚えていることは少ない。確か二週間前もこんなことがあったっけ。こう短いスパンで夢を覚えたまま起きていられるなんて、珍しいこともあるものだ。気怠さに撒かれたままのそりと身を起こすと、タイミングよくドアをノックする音が聞こえた。「起きてる」と声をかけたら、間を置いてがちゃりと扉が開き、二人分の朝ごはんをトレーに載せたラニが入ってくる。
「おはようございます。体調にどこか優れないところはありますか」
「ないよ。強いて言うならまだ眠いけど。朝ごはん、いつもありがとう」
「いえ。それでは予定通り一時間後に出発できそうですね」
ラニの言葉に頷きながら私はベッドを下りた。煮込んだそら豆とパンからほくほくと湯気が立っている。これは彼女がよく作ってくれる朝ごはんで、エジプトでは定番の組み合わせらしい。
「あと一日で目的地だっけ?」
「我の見立てでは二日だがな」
ベッドの間際のテーブルを囲み、朝ごはんを口にしながらラニに問いかけたが、ラニより先に応えたのはギルガメッシュだった。声が聞こえた途端部屋の一角に金砂が舞い、彼が姿を現す。
「……いつからいたの?」
「さてな」
ギルガメッシュ──人間ではなく英霊の座から召喚されしサーヴァントである彼は、肉体を霊体化させることもできるらしい。出会ってから二週間近くが経とうとしている今は流石に慣れてきたけれど、こうして唐突に姿を現されると驚いてしまう。
「倍かかる……それはどうして」
「我が視た未来がそうだったからだ」
彼の言い分に合点が行く。何でもギルガメッシュは千里眼と呼ばれる特別な眼を持っていて、未来すら見通すことができるらしい。その彼が言うのなら本当にそうなのだろう。
「では、何かしらの障害が私達を待ち受けているということですか」
「旅に困難は付き物だ。心してかかれよ。ここで力尽きては我が手を貸す意味がない」
ギルガメッシュの醸す物々しい空気に思わず背筋が伸びながら、手に持ったままにしていたパンを頬張る。……これから何が起こるのかはわからない。だけど、腹が減っては戦ができぬとは私の国の諺だ。ここでしっかり力を蓄えておかなければ。出会った時にギルガメッシュが言っていた通り──このままでは地球が滅びる、というのなら。
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